やんちゃ怪獣の母さん 088 | 第2回ぐるっとママ懸賞作文RSS元(カウント除外ページです)

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

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やんちゃ怪獣の母さん 088

小さくて偉大な奇跡    
生まれてきてくれて、本当にありがとう
  
 

「マタニティマークを落としたんですけど、届いていませんか」
私が駆け込んだのは、賑やかな夏祭り会場の本部テントでした。つわりの辛さからやっと解放され、5歳の長男と手を繋いで外出したのは久しぶりのことでした。
元々がシンプルな作りのマタニティマークのキーホルダーは、長男のお気に入りで、しょっちゅうおもちゃにされていました。
何度もポロリとチェーンから外れることがあり、補強の金具もつけていたのですが、この日ついに失くしてしまったのです。
「こちらにはまだ届いておりません」と申し訳なさそうに言われ、がっかりしていると、
「これでしょうか?」と小さな女の子を連れたお父さんが、拾ったマークをちょうど届けてくれたのです。ほっと胸を撫で下ろしました。

マタニティマークひとつで大袈裟な、と思われるかもしれません。
でも、1年前に流産を経験し、妊娠出産は奇跡だということを身に染みて深く感じた私にとって、マタニティマークには計り知れない重さが宿っていました。
流産して初めて、周囲にも同じ辛さを経験した人が多いことや、防ぐ手立ては実はあまりないことを知りました。
そうなると、祈るくらいしかできることはありません。
マタニティマークがまるで、安産祈願のお守りのように思えてきて、落としてしまったらお腹の赤ちゃんをまた失いそうで、怖くてたまりませんでした。
マークをなくしたと思ったけれど、無事に戻ってきたから、この子はきっと大丈夫。
そんな迷信じみた思い込みで自分を励まし、「どうか無事に生まれてきてね」とあらためてお腹に語りかけました。

上の子がいると妊娠期間を楽しむ余裕もなく、苦しいお腹と痛む股関節をなだめながら臨月を迎え、あとはお産の兆候を待つだけとなりました。
子供の寝かしつけをバタバタと終えて一息ついたある夜、夕方から感じていたお腹の痛みが、妙に規則的なことに気づきました。あれ、もしかして、これって陣痛?
夫はまだ仕事から帰っていなかったので、北海道から泊まり込みでサポートに来てくれていた母に家のことを頼み、マタニティマークと山ほどの安産祈願のお守りを握りしめてタクシーに飛び乗りました。

病院に着くと、ベテラン看護師さんに「これだから経産婦さんは、のんびりしてて危なっかしい!」と半ば冗談のように叱られながら、分娩台にあがりました。
その後、規則的に強くなる陣痛をやり過ごしながら、「そろそろ旦那さん呼んでください」と言われたのは、分娩室の窓から見える空が白み始めたころ。
前回の出産のときは全く余裕がなかったけれど、今回は「あ、いま狭いところに頭がはまったな」「ぐぐっと骨盤を広げて出てきてるな」と、少しずつ赤ちゃんが降りてくる様子を感じることができました。
「頭が見えましたよ。髪の毛たくさんはえてます!」と助産師さんが声をかけてくれます。
赤ちゃんの頭がスポンと出て、すぐに身体もするっと通った感覚があり、あんなに苦しかったお腹が一気に楽になりました。

まだへその緒がついたままの、小さな小さな赤ちゃんが、目の前にいました。
あんなにお腹の中から力強く蹴っていたのに、出てきたらこんなに小さくて、頼りなくて、でも顔を真っ赤にして力いっぱい泣きながら、手足をバタバタと動かしています。
「君がお腹の中にいたんだね。やっと会えたね」
元気に生まれてきてくれた、ただそれだけで、全ての不安や痛みが報われた気がしました。

流産したことや、願ったタイミングでなかなか第二子を授かれなかったことは、良い経験をしたとは決して言えません。
でも、命の誕生がいかに奇跡かを実感できたことは、この先の人生を過ごしていく上で得難い学びであったと、今やっと考えることができます。
使い終わったマタニティマークは、臍の緒と一緒に大事にしまってあります。
「ただここに存在してくれることの尊さ」への感謝を常に胸に抱きながら、子供たちとともに、毎日を大切に過ごしていきたいと願っています。

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