ちよひさん 069
わたしが出産で失ったもの
愛してくれてありがとう
わたしが第一子である長女を出産したのは、二十三歳の冬のことだった。周りの友達はまだ大学を卒業したばかりで、仕事に恋に趣味にと忙しくしていた。いち早く妊娠・結婚したわたしを友達たちは羨ましがっていたけど、わたしはこれから始まる「育児」という未知への不安でいっぱいだった。大変なんだろうということは予想できた。ミルクは三時間おき、そのあとにげっぷをさせ、抱っこをして寝かしつける。想像しただけでも眩暈がしそうだと思っていた。しかし、現実はもっと過酷だった。三時間おきの授乳といっても、そんな時計通りに生まれたばかりの生き物が動いてくれるはずもなく。授乳途中で寝てしまい、三時間も持たずにまたおなかがすいたと泣き出し。げっぷをさせた時に激しくミルクを吐き戻してしまって洋服やシーツをすべて取り替えることになり。いくら抱っこをしても泣き止まず、寝ない。こんなにも睡眠が取れず、こんなにも休めず、こんなにもつらいだなんて思ってもいなかった。友達たちが楽しく飲み会を開いている間、わたしはずっと声を押し殺して泣きながら娘を抱いていた。友達たちがてきぱきと働いて仕事へのやりがいを見出している時、わたしはぼろぼろの肌で髪を振り乱して娘のおむつを替えていた。娘を産むことはわたしが決めたことだ。娘はかわいい。けれども、わたしが出産で失ったものはあまりに多すぎた。激しい吐きづわりのせいで脆くなってすぐに欠けてしまう歯。スキンケアなんてする暇もなく、砂漠のようにかさついた肌。おなかにはおびただしい妊娠線。大好きだったヒールの靴も一年以上履けていない。朝まで友達とだべりながらお酒を飲むことも、何時間も一人でウインドウショッピングをすることも、大好きな映画をゆっくり観ることも、もうわたしにはできないのだと毎日さめざめ泣いた。娘が一歳になるまでぐらいさ、本当に毎日そんな調子だった。失ったものばかりを数え、周りを羨み、妬んでいた。あの頃のわたしは本当に醜かったと思う。そんな醜いわたしと違って、娘はどんどんきらきらと成長した。寝返りをし、ハイハイをし、つかまり立ちをし、伝い歩きをし、気づけば一人で歩くようになった。桃色の歯茎から覗く白い歯。シールを摘む小さな指。わたしを「まま」と呼ぶ声。差し出した手をきゅっと握ってくれる力の強さ。その成長の尊さが、わたしの卑屈さを少しずつ変えてくれた。どんなにボサボサの髪だろうがスッピンだろうが、娘は「ママかわいいね」と言ってくれた。わたしのぽよぽよのお腹にほっぺたをくっつけて「きもちいい」と笑ってくれた。大好きなお菓子を分けてくれた。娘は、わたしが失ったものよりもっともっとたくさんの愛情をくれた。わたしが娘にあげたより、もっとたくさんの愛情だった。わたしは何も失っていなかった。むしろ、前よりもっと多くのものを手にしていた。それに気づくのに、ずいぶんと時間がかかってしまった。こんな愚かなわたしだけれど、気づけば三児の母。毎日目が回りそうなほど大変だ。それでもわたしの日々はきらきらしている。やさしく正義感あふれる長女と、天真爛漫な長男、食いしん坊で甘えん坊の次男のおかげで。月並みになってしまうけど、わたしから彼女たちに伝えたい言葉はこれだ。わたしの子供に生まれてくれて、愛してくれて、ありがとう。
愛してくれてありがとう
わたしが第一子である長女を出産したのは、二十三歳の冬のことだった。周りの友達はまだ大学を卒業したばかりで、仕事に恋に趣味にと忙しくしていた。いち早く妊娠・結婚したわたしを友達たちは羨ましがっていたけど、わたしはこれから始まる「育児」という未知への不安でいっぱいだった。大変なんだろうということは予想できた。ミルクは三時間おき、そのあとにげっぷをさせ、抱っこをして寝かしつける。想像しただけでも眩暈がしそうだと思っていた。しかし、現実はもっと過酷だった。三時間おきの授乳といっても、そんな時計通りに生まれたばかりの生き物が動いてくれるはずもなく。授乳途中で寝てしまい、三時間も持たずにまたおなかがすいたと泣き出し。げっぷをさせた時に激しくミルクを吐き戻してしまって洋服やシーツをすべて取り替えることになり。いくら抱っこをしても泣き止まず、寝ない。こんなにも睡眠が取れず、こんなにも休めず、こんなにもつらいだなんて思ってもいなかった。友達たちが楽しく飲み会を開いている間、わたしはずっと声を押し殺して泣きながら娘を抱いていた。友達たちがてきぱきと働いて仕事へのやりがいを見出している時、わたしはぼろぼろの肌で髪を振り乱して娘のおむつを替えていた。娘を産むことはわたしが決めたことだ。娘はかわいい。けれども、わたしが出産で失ったものはあまりに多すぎた。激しい吐きづわりのせいで脆くなってすぐに欠けてしまう歯。スキンケアなんてする暇もなく、砂漠のようにかさついた肌。おなかにはおびただしい妊娠線。大好きだったヒールの靴も一年以上履けていない。朝まで友達とだべりながらお酒を飲むことも、何時間も一人でウインドウショッピングをすることも、大好きな映画をゆっくり観ることも、もうわたしにはできないのだと毎日さめざめ泣いた。娘が一歳になるまでぐらいさ、本当に毎日そんな調子だった。失ったものばかりを数え、周りを羨み、妬んでいた。あの頃のわたしは本当に醜かったと思う。そんな醜いわたしと違って、娘はどんどんきらきらと成長した。寝返りをし、ハイハイをし、つかまり立ちをし、伝い歩きをし、気づけば一人で歩くようになった。桃色の歯茎から覗く白い歯。シールを摘む小さな指。わたしを「まま」と呼ぶ声。差し出した手をきゅっと握ってくれる力の強さ。その成長の尊さが、わたしの卑屈さを少しずつ変えてくれた。どんなにボサボサの髪だろうがスッピンだろうが、娘は「ママかわいいね」と言ってくれた。わたしのぽよぽよのお腹にほっぺたをくっつけて「きもちいい」と笑ってくれた。大好きなお菓子を分けてくれた。娘は、わたしが失ったものよりもっともっとたくさんの愛情をくれた。わたしが娘にあげたより、もっとたくさんの愛情だった。わたしは何も失っていなかった。むしろ、前よりもっと多くのものを手にしていた。それに気づくのに、ずいぶんと時間がかかってしまった。こんな愚かなわたしだけれど、気づけば三児の母。毎日目が回りそうなほど大変だ。それでもわたしの日々はきらきらしている。やさしく正義感あふれる長女と、天真爛漫な長男、食いしん坊で甘えん坊の次男のおかげで。月並みになってしまうけど、わたしから彼女たちに伝えたい言葉はこれだ。わたしの子供に生まれてくれて、愛してくれて、ありがとう。
いいね!