ベジタリアンには心疾患が少ないが脳卒中が多い | 薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

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薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

2020.10.22

ベジタリアンには心疾患が少ないが脳卒中が多い



科学的栄養学No.128

◇ベジタリアンには心疾患が少ないが脳卒中が多い

 

3万人を対象とした英国の研究、出血性脳卒中のリスクは1.4倍に

 

肉や魚を食べず、野菜中心の食生活を送るベジタリアンは、肉も食べる人たちに比べ、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症など)のリスクは2割ほど低い。
 

しかし、一方で、脳卒中のリスクが高く、特に出血性脳卒中(脳出血、クモ膜下出血など)のリスクは4割以上高くなることが、英国で行われた研究で示されました。

 

近年、ベジタリアン(菜食主義者)が世界的に増加しています。

 

理由の一つは、健康利益が期待されることにありますが、動物福祉や環境保護を目的としてベジタリアンになる人も増えています。

 

 既に、ベジタリアンと非ベジタリアンでは、特定の疾患を発症するリスクが異なることが示唆されていますが、食習慣がその後の循環器疾患の発症に及ぼす影響について検討する大規模な研究はほとんど行われていませんでした。

 

 そこで、英Oxford大学のTammy Y N Tong氏らは、虚血性心疾患と脳卒中に焦点を絞って、食習慣が発症に及ぼす影響を明らかにしようと考えました。

 

虚血性心疾患心筋梗塞、狭心症など

脳卒中 :虚血性脳卒中(脳梗塞など)出血性脳卒中(脳出血、クモ膜下出血など)

 

 分析対象にしたのは、「EPIC-Oxfordスタディ」と呼ばれる観察研究に参加した英国の成人です。EPIC-Oxfordは、1993年から2001年までに、英国全体でおおよそ65000人の男女を登録して行われました。

 

 虚血性心疾患や脳卒中の病歴がなかった48188人を、ベースラインで収集した食物摂取に関する情報に基づいて、以下の3群に分けました。

 

1)肉を食べる人(魚や卵、乳製品を食べるかどうかは問わ
         ない):
24428

 

2)魚を食べる人(肉は食べないが、魚は食べる):7506
 

3)ベジタリアン(肉と魚は食べないが、卵と乳製品のいずれか〔または両方〕は食べる):16254人。
 

ヴィーガン(肉、魚、卵、乳製品を全て食べない人/1832人)を含む。

 

 2010年から2013年にかけて上記の人々に再調査に応じるよう依頼したところ、28364人が応じました。
 

それらの人々に、食習慣に変化があったかどうかを尋ねたところ、ベースラインで肉を食べていた人の96%、魚を食べていた人の57%、ベジタリアンだった人の73%は、そのままの食生活を続けていました。

 

3群の人々を2016331日まで追跡し、必要な情報が得られた20歳から90歳までの28364を分析対象にしました。
 

18.1年間の追跡期間中に、48188人中2820人が虚血性心疾患を発症、うち788人が急性心筋梗塞と診断されていました。
 

また、1072人が脳卒中を発症、うち519人は虚血性脳卒中、300人が出血性脳卒中と診断されていました。

 

 学歴などの社会人口学的特性、喫煙歴などのライフタイル要因を考慮した上で、肉を食べる人を参照群として、魚を食べる人とベジタリアンの虚血性心疾患や脳卒中のリスクを推定しました(表参照)。

 

虚血性心疾患のリスクは、肉を食べる人に比べ、魚を食べる人では13%低く、ベジタリアンでは22%低くなっていました。

 

一方、脳卒中のリスクは、ベジタリアンで20%上昇し、特に出血性脳卒中が多く発生していました(43%上昇)。

 

魚を食べる人では脳卒中のリスクに変化はありませんでした。

 

 ベジタリアンとヴィーガンを分けて分析すると、ヴィーガンでは、どの疾患についても、肉を食べる人と比較したリスク上昇または低下は見られませんでしたが、著者らは、「分析対象とした人数が少なかったことが原因かもしれない」と述べています。

 

 今回の研究では、魚を食べる人とベジタリアンの虚血性心疾患のリスクは、肉を食べる人より低いこと、一方で、ベジタリアンでは、出血性脳卒中とあらゆる脳卒中のリスクが高いことが示唆されました。

 

 研究者たちは「今後、別の集団を対象に、今回の研究の結果を確認すると共に、リスクに差をもたらしている可能性のある、LDL-コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)や中性脂肪といった血中脂質の値や、ビタミンB12、脂肪酸などの摂取量を調べて、そうした疾患のリスクに影響を及ぼしているかどうかを検討する必要がある」と述べています。

 

原著論文はこちら

 Tong TYN, et al. BMJ. 2019 Sep 4;366:l4897.

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