歳をとったとき、脳を守るには | 薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

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薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

2020.10.15

歳をとったとき、脳を守るには



科学的栄養学No.127

◇歳をとったとき、脳を守るには

 

歳をとった脳を健やかに保つのにいちばん効果的な方法ってなんだと思いますか?

 

これまでの実験報告から考えると、意外に思うかもしれませんが、答えは「運動」です。
 

実は、脳神経細胞が働くときには、多くの助けが必要になります。

 

でも、肝心の循環系が老化して問題を起こすと(動脈硬化、血栓、高血圧など)、脳へ酸素やエネルギー源のブドウ糖を運ぶ血液の供給が減少する恐れがあります。

 

だから、心拍数を少し上げるような運動を定期的に行うことが、歳をとっても認知能力を保つことができる唯一にして、最も有効な方法なのです。

 

一生ずっと身体を動かしてきたような高齢者は、座っていることが多かった同年齢の人たちよりも実行機能を必要とする作業能力がずっと高かったという研究もあります。
 

運動を行うとなぜ脳の機能が高くなるのか?

 

その効果に関係が深いと思われるものとして、以下のようなことが考えられます。

 

人間の場合は、加齢とともに脳実質部の縮小が始まりますが、体を鍛える運動はこの加齢にともなう大脳皮質の縮小を遅らせます。
 

動物実験においては、運動により脳の毛細血管の数が増加し、脳神経細胞への酸素やブドウ糖の供給量が高まるとの研究結果もあります。

 

他にも、運動は脳神経細胞の1本の長い足に当たる軸索と、神経細胞同士の接合部であるシナプスの成長を促す成長因子である多様なタンパク質の放出を引き起こし、シナプス可逆性を高めて海馬などのニューロンの新生も起こすという研究もあります。

 

運動習慣がある人は、してない人に比べると70代でアルツハイマー病にかかるリスクが3分の1になるともいわれています。
 

この運動とアルツハイマー病の関係性については、60代で運動をはじめてもそのリスクは半分になるというデータもあり、いかに運動が脳に大事であるかを物語ってます。

 

さらに、運動は神経栄養因子の増加に関わる遺伝子の発現増加をもたらします。

 

くるくると回転する滑車の中をラットを走らせる動物実験では、自発的に滑車を走ったラットは、そうでないラットに比べて、脳由来神経栄養因子(Brain Derived Neurotrophic Factor : BDNF)が増加していることがわかりました。
 

BDNFは、神経細胞の健康度を高め、新たな神経同士の連結部であるシナプスの形成や、その連結を保持し、脳組織の厚さや結合性を増加させます。

 

この、BDNFは記憶に関わる海馬においてその増加が特に認められており、運動による認知機能の向上に寄与している可能性が示唆されます。

 

また、体力の構成要素のうち全身持久力の指標となる最大酸素摂取量(有酸素性能力)が高い中高年者では、脳の白質、灰白質における組織の密度とも相関関係にあることも。

 

有酸素性能力が優れている人の脳組織はより密度が高く、実行や思考などの働きを担う前頭葉の重要な領域において、加齢に伴う組織の減少が抑えられていることが分かりました。

前頭葉は加齢による機能低下が著しい領域でもあります。運動はこの低下を予防する極めて重要なものと思われます。

 

つまり、運動は脳や精神の若さを維持する働きをもつと考えることができるのです。

 

秋晴れの中、気持ちよく体を動かしてみましょう。有酸素運動が効果的です。

 

 

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