「平熱37度」はもはや常識ではない? | 薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

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薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

2020.05.14

「平熱37度」はもはや常識ではない?



科学的栄養学 No.105

◇ 「平熱37度」はもはや常識ではない?

 

新型コロナ感染が疑われる症状として37.5°C以上の発熱を伴う風邪の症状が続くことがあげられています。

 

日ごろから自分の体温を管理しておくことの大切さをあらためて気づかれた方も多いこと思います。

 

ところで、平時の自分の体温をみなさまはどこまで把握されていますか? 

病院で来院者にアンケートを取ると、平均36.2℃と回答したという報告があり、実際の体温より低く把握しているケースが多いとのことです(臨床体温23:1,2005;35-38)

 

どうも、人は自身の体温を実際より低く感じているようです。

 

一口に体温といっても年齢や性別、検温時間によってもちがってきます。

 

コロナの件で、「平熱が34℃台や35℃台前半だから、36℃台でも自分にとっては熱が高くて心配だ」といって、来院する患者さんもいるとのこと。

 

一般に、10代~50歳前後までの日本人の健康な人の腋窩体温の平均値は36.89で、36.6~37.2℃に約7割の方が入るという(日新医学44:12,1957;635-638)。

 

また、65歳以上の高齢者においてでも、午後1時から4時までに測った体温の平均値は36.66で、36.2~37.1℃に約7割の人が入るとされています(日老医誌 12:3,1975;172-177)。

 

さらに体温には1日のリズムがあります。

 

午前3時から7時頃までが一番低く、そこから徐々に上昇し、午後2時から6時ごろが一番高くなり、その変動差は最大0.8℃程度あることが報告されています(J appi physiol.65(1988),1840-1846)。

 

また、食事後や運動後、入浴後も体温は上昇します。


加えて女性では、月経周期で排卵が起こる前(月経が始まる2週間ほど前)からは高温期に移行し、低温期より0.3~0.5℃上昇します。

 

このように体温は1日の中でも、数日の周期でも、変動するものなのです。

 

ですから、理想は1日数回、決められた時間に正しく検温することが大切になります。

 

ところで、欧米では長らく、平熱の目安は摂氏37度と考えられてきました。日本でもそれは同じで、学校でもそう教わった記憶があります。

 

しかし、米スタンフォード大学医学部教授のJulie Parsonnet氏らの研究で、米国成人の体温は19世紀から下がり続けていることが明らかになりました。

同氏は「子どもの頃に教わった“平熱37度”は、もはや常識ではない」と述べています。

 

平熱の目安は、1851年にドイツの医師が37度とすることを提唱して以来、それが一般的とされてきたのです。

 

しかし、近年では、その基準は高すぎるとする研究報告が相次いでいる。例えば、約3万5,000人の英国成人を対象とした最近の研究では、平均体温は約36.6度であると報告されています。

 今回の研究は、南北戦争の退役軍人の兵役記録や医療記録から収集した1862~1930年のデータと、1971~1975年に実施された米国国民健康栄養調査(NHANES)データ、米スタンフォード大学病院の患者データベースから収集した2007~2017年のデータを用いたもの。1862年から2017年の間に測定された計67万7,423件の体温データを分析したもの。

 

その結果、2000年代に生まれた男性の平均体温は、1800年代初期に生まれた男性よりも0.59度低かった。一方、2000年代に生まれた女性の平均体温は、1890年代に生まれた女性よりも0.32度低いことが分かった。

全体として、米国人の体温は10年ごとに0.03度低下していることが明らかになったという。

 Parsonnet氏らは、米国人の平均体温が下がった理由の一つとして、代謝を上げる炎症が減ったことを挙げている。

「感染症などで炎症が起こると、代謝を上げて体温を上昇させるタンパク質やサイトカインが産生される」と同氏は説明する。

しかし、過去200年の間に、医療の進歩や衛生状態の改善、食生活や生活水準の向上により、公衆衛生面が劇的に改善したことで、こうした炎症を起こすことが減ったと考えられるとしている。

 

また、住環境が快適になったことも、体温が低下した一因である可能性がある。

19世紀とは違い、現代の住居では、セントラルヒーティングやエアコンがあたりまえのものとして設置されており、快適な暮らしが送れるようになった。そのような環境では、体温を維持するために、より多くのエネルギーを消費する必要もなくなったことは大きいという。

 Parsonnet氏は「200年前と比べ、室温や微生物との接触、入手できる食品などを含めた生活環境は大きく変化した。

われわれ人間は、生理学的な変化を遂げていると言える」と話している。

 

 

原著論文はこちら

Protsiv M, et al. Elife. 2020 Jan 7. [Epub ahead of print]

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