「安全な飲酒量」今の基準では多すぎる? | 薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

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薬学博士 竹内久米司さんからのアドバイス

2019.11.29

「安全な飲酒量」今の基準では多すぎる?



 科学的栄養学No.81

◇「安全な飲酒量」今の基準では多すぎる?

 

最近の論文から、死亡や循環器疾患のリスクを高めない飲酒量はどの程度かを検討した英国の研究で
死亡リスクを高めない飲酒量は、純アルコールで
1週間に約100gが上限であることが示されたので紹介します。

 

これは、厚生労働省が示している「節度ある適度な飲酒」の目安
1日平均20g1週間で140g程度)よりも低い数字です (*1 

1 純アルコール20gは、ビールなら中瓶1本(500mL)、ウイスキーならダブル1杯(60mL)に相当する。

 

厚生労働省は、節度ある適度な飲酒は、純アルコールにして1日平均20g程度(週140g程度)としています。

 

しかし、世界各国の飲酒に関するガイドラインが示す基準値はばらついており
どれを見本にすればよいのか迷うのが現状です。

 

 例えば米国は、男性は1週間に196g、女性は1週間に98gを上限としています。

 

カナダとスウェーデンも同様です。

 

一方で、イタリア、ポルトガル、スペインは、米国のおおよそ1.5倍を上限とし
英国は、男性の上限を米国の半分強(
112g)に設定しています。

 

このように、飲酒量の上限は国によってまちまちです。

そこで、英ケンブリッジ大学などの研究者たちは、死亡と循環器疾患
(心筋梗塞や心不全、脳卒中など)のリスクを高めない飲酒量を明らかにしようと考えました。

 

 分析対象にしたのは、19の高所得国
(米国、カナダ、英国などの西欧諸国、オーストラリア、日本ほか)の住民を
対象に行われた
3つの大規模研究に参加した人々です。

 

この中から、飲酒習慣があり、循環器疾患の経験がない599912
(平均年齢
57歳、女性44%、喫煙者21%)を選び、約7.5年追跡して
死亡および循環器疾患の発症と飲酒量との関係を検討しました。

 

 対象となった人々の約50%が週に100gを超える純アルコールを摂取しており
8.4%では摂取量が350gを超えていました。

 

 検討の結果、死亡リスクは、飲酒量が増加するにつれて、あるポイントから曲線的に上昇していました。

 

具体的には、純アルコール摂取量が週に100g以下の人では
死亡リスクは飲酒量にかかわらず一定でしたが
週に
100gを超えると週150gあたりまで緩やかに上昇し
それ以降は急上昇していました。男女別に分析しても同様の上昇傾向が見られました。

 

 なお、1週間当たりの純アルコール摂取量が同じでも
ワインを飲む人に比べビールまたはスピリッツを飲む人のほうが
飲酒量の増加に伴う死亡リスクの上昇は大きくなっていました。

 

また、より飲酒頻度が低い、すなわち1回当たりの飲酒量が多い人も
飲酒量増加に伴う死亡リスクの上昇が大きいことが分かりました。

 

 一方、循環器疾患のリスクは、純アルコール摂取量の増加とともに

J字型のカーブを描きました。

リスクが最も低いのは飲酒量が週100gの人で、1週間にわずかだけ飲酒する人と
200g飲酒する人のリスクは同程度でした。

 

 飲酒量増加とともにリスクが上昇する循環器疾患は、脳卒中
1週間の純アルコール摂取量が100g増加するごとに1.14倍)
心筋梗塞以外の冠動脈疾患(同
1.06倍)、心不全(同1.09倍)、高血圧による死亡(同1.24倍)
大動脈瘤による死亡(同
1.15倍)でした。

 

 ところが、飲酒量と心筋梗塞の関係は上記とは全く異なっていました。
リスクが最も高いのは
1週間にわずかしか飲まない人で
100gまでは飲酒量が増加するにつれてリスクは低下していました。

100g以上では、飲酒量が増えてもリスクは一定の低い値を維持しました。

全体では、1週間の純アルコール摂取量が100g増加するごとに
心筋梗塞のリスクは
6%ずつ減少する、という結果になりました。

 

今回のデータを利用して推定すると
英国で男性の飲酒量の上限値に設定されている週
112gを超える量を飲む人の40歳時点の余命は
上限値以下の人に比べ
1.6年短く、米国のガイドラインの上限値である週196gを超える男性では
それ以下の人に比べ
2.7年短くなると考えられました。

 

同様に女性では、英国の上限値である週112gを超える人と
米国の上限値である週
98gを超える人の40歳時点の余命は
それらの上限値以下の集団に比べいずれも
1.3年短くなると推定されました。

 

 高所得国の飲酒者において、死亡リスクが最も低くなる飲酒量は
純アルコール量でおおよそ週に
100g以下でした。

一方で、循環器疾患のリスクについては、全体でも、個々の疾患についても
明確な閾値は見いだせませんでした。

 

 今回得られた結果は、多くの国で現在用いられている安全な飲酒量の上限を引き下げる必要があることを示唆しています。

 

原著論文

 Wood AM, et al. Lancet. 2018 Apr 14;391(10129):1513-1523. 

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