2019.09.06
機能性表示食品制度で注目集めるEPA
脳科学的栄養学No.70
◇機能性表示食品制度で注目集めるEPA
すでにご存知かと思いますが、「機能性表示食品制度」が始まってから4年経過。
これは食品の健康に対する効用を企業の責任で表示できるというもの。
とりわけ注目され、今後関連商品が増えるかもしれないと期待されている栄養素の一つに
消費者庁の「食品の機能性評価モデル事業」で唯一総合評価「A」を受けたEPA(およびDHA)があります。
今回はEPAはいったいどんなパワーを持っているのかについてミニレクチャーします。
EPA(エイコサペンタエン酸)とは、イワシやサバなど青魚の魚油に多く含まれている脂肪酸。
同じく魚油に多いDHA(ドコサヘキサエン酸)と同じ「オメガ3」という種類で
体内で合成できないため食品から摂らなければいけない必須脂肪酸のひとつです。
2012年にグルコサミン、コエンザイムQ10、ヒアルロン酸など人気の高い11種類の栄養素を
消費者庁が判定した「食品の機能性評価モデル事業」で、EPA/ DHAは「心血管疾患リスク低減」や
「血中中性脂肪低減作用」で「十分な根拠がある」という総合評価「A」を受けてました。
ちなみに11種類の中でA評価を受けたのはEPA/ DHAだけ。
それだけ明らかな効果が認められているといえる。
EPA研究の発端は1960年代に行われたイヌイットの疫学調査にはじまります。
グリーンランドに住むイヌイットは脂肪の摂取量が多いにもかかわらず、デンマークの白人に比べて
心筋梗塞の発症率が低く、1割以下という結果。
やがて、EPAが「赤血球を柔らかくすることが明らかになる。毛細血管の直径は赤血球よりも小さいので
赤血球がグニャリと変形しなければ血管の先端部まで届かない。
つまり、赤血球の変形能を高める作用があるEPAには血液の流れをスムーズにする作用があるということです。
心筋梗塞は心臓の冠動脈が詰まる病気なので、血行が良くなればそれだけ起こりにくくなる。
80年代に入ってから、千葉大学医学部附属病院のチームが、国内の漁村部と農村部で「血液粘度」の違いを
調べた。
粘度が高い血液は俗にいうドロドロ。
流れにくく、詰まりやすいため、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなる。
調査の結果、農村と漁村ではEPAの摂取量がそれぞれ1日0.9gと2.7gで3倍の差がありました。
血液粘度に加えて、虚血性心疾患や脳血管疾患の死亡率にも違いがあり、明らかに漁村のほうが低いことが
判明。
つまり魚を食べる機会が多く、EPAをたくさん摂っているほうが血液サラサラで
心筋梗塞や脳卒中を起こしにくいということがうかがえる結果が出たわけ。
これを裏付けるように、農村部の人たちに魚油をのませると血液粘度が下がったという。
その後、EPAが血液中の中性脂肪を下げ、血小板が固まるのを抑えることも確認された。
赤血球、血小板、中性脂肪と、EPAはさまざまなところで働いて粘度を下げ
血液をサラサラにするというわけ。
20世紀末にはEPAを主成分とした「中性脂肪を下げる医薬品」も発売されています。
最近ではEPAの新たな機能性を探る研究も始まっている。
EPAが「運動時の持久力を高める」という。
日本水産が順天堂大学の駅伝選手たちに、1日1.6gのEPAを含むサプリメントをのんでもらったところ
4ヵ月後、EPAをのまなかった選手たちの1万メートル走のタイムが平均5秒短縮したのに対し
EPAをのんだ選手たちはなんと51秒も短縮したという。
その理由はやはり赤血球を柔らかくすることと推測されている。
血行が良くなった結果、全身の細胞に効率よく酸素が運ばれたのだろう、ということ。
そんなEPA、前述した通り青魚に多く含まれるが、日本人の魚の摂取量は年々減り続けている。
かつては肉より魚の摂取量が多かったのに、2009年以降は逆転してしまいました。
一方、厚生労働省の人口動態調査によると、「心疾患の死亡数」は1980年に12万3505人だったのが
2010年は18万9360人と、30年で1.5倍に増えている。もしかすると、魚の摂取量が減っていることも関係しているのかも。
厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準」では、EPAとDHAを合わせて1日1g以上摂ることを推奨している。
できれば1日3食のうち、1食は魚を食べるようにしてほしいところ。
毎日の食事で摂るのは自信がないという人は、サプリメントを上手に利用するのも選択肢。
なお、EPAは脳神経細胞の重要な構成成分ですので、一時「魚を食べると頭が良くなる」とさかんに
宣伝されましたが、外から摂ったEPAが脳実質に届くのかということに関しては、現在まで
科学的なエビデンスは明らかになっていません。